子のイラストバックナンバー

2018.11.09

勉強に“不快”の感情が
染みつく前に


 前回は、お子さんが小学校低~中学年のうちに、ぜひ保護者に心がけていただきたいことについてお伝えしました。それは、勉強に対する“快”の感情、プラスのイメージをもった子どもに育てるということでした。

 実際にやってみたら痛感されると思いますが、勉強への取り組みで子どもに快の感情を味わわせるのは容易いことではありません。それも当然と言えば当然です。私たち大人自身が我が身を顧みても、「勉強が好き!」とか「勉強は楽しいもの」といった感情をもっているかというと、大概の人は「NO」とお答えになるのではないでしょうか。

 勉強という熟語は、「勉める」と「強いる」の組み合わせからなることを考えても、「必要ゆえに敢えて自らに課すもの」と古くから認識されていたことが伺えますね。「何だ、やっぱり勉強って楽しいものじゃないんだ」と思われたでしょうか。

 私は次のように思います。「低学年児童期までの勉強は、子どもに無理強いしてやらせるのではなく、興味をもたせ、考えさせ、気づきを得たり解決に至ったりしたときの快感や喜びをたくさん味わわせることが肝要だ」と。以前も書きましたが、小学校低学年までの子どもは、もともと「これは勉強か、それとも遊びか」という区別の観念は存在しません。おもしろそうなら何にだって興味を示します。そうして、知りたいという感情が高ぶってきたなら、我知らず夢中になって考え始めます。このような体験を繰り返せば、どのお子さんも勉強に快の感情を宿すことができるのです。

 ところが、多くの親は「勉強、ちゃんとやったの?」「全然やっていないじゃない。こんなんじゃ、落ちこぼれになってしまうよ」「早くやりなさい!」などと、子どもを叱ったり揺さぶったりしがちです。これも、「ちゃんと勉強のできる子になってほしい」という願いから来ることではありますが、まず間違いなく逆効果を招くことになります。すなわち、「遊びは好き!勉強は(大)嫌い!!」という、通り相場の観念を宿した子どもにしてしまうのです。何しろ、遊びには親が口うるさく介入してきません。自由に考え工夫できるから、遊びは掛け値なく楽しいのですね。

 だいぶ前のことですが、私が学習塾で低学年の指導部門の責任者をしていたとき、現場の担当者から「おかあさんに家庭で勉強づけにされて疲れているのか、授業中にボンヤリしたり、居眠りをしたりする男の子がいます」という相談を受けたことがあります。そこで早速その子のおかあさんと面談をすることにしました。その際、私は「まだお子さんは低学年ですから、勉強は楽しいんだ、という気持ちをもたせる必要があります」と申し上げました。しかしながら、すぐさま「先生、勉強というのは、辛さに耐えて、歯を食いしばってやるものです。そうやっているうちに、面白味もわかってくるんです!」と、私の助言は即座に否定されてしまいました。

 確かにそういう考えも一概に否定できません。しかしながら、それは勉強の下地ができ、勉強から得られる手応えや楽しさをある程度わかっている子どもに当てはまることです。そのおかあさんのお子さんは、ただただ勉強を嫌がるばかりであり、授業でみんなが楽しそうに勉強に取り組んでいるときにも蚊帳の外の存在でした。

 彼は、家庭教師をつけられ、毎日の勉強メニューも大人に厳しく管理され、がんじがらめにされていました。彼の頭のなかは、おそらく「自由に遊びたい」という願望が渦巻いていたことでしょう(彼のおかあさんは、中学受験の見通しがいよいよ絶望的だとわかってきた6年生の秋ごろ、「私は間違っていました」と、おっしゃったそうです。)

 では、どうやったら子どもに勉強の面白味を味わわせ、「勉強って、いいものだ」という実感をもたせることができるでしょうか。まずは、お子さんへの関わりかた全般を振り返ってみてください。日常生活において、何でも親から指示を出したり、命令したりする傾向がありませんか?もしもあったなら、そこから変えていく必要がありそうですね。子どもが積極的に何かを知りたいと考え、それを行動に移す過程で得られる楽しさや、知りたいことがわかったときの充実感を経験させるようがんばってみてください。

 たとえば、次のような働きかけをしてみてはいかがでしょうか。働きかける話題は、勉強に直接関係のないことでも構いません。昆虫のことや自然の不思議、科学に関する話題など、何でも構いません。図鑑で調べたらわかりそうな事柄がよいかもしれませんね。

 こんなふうに、何か話題をおかあさんから出して、子どもに考えさせ、子どもの考えを言わせてから、一緒に調べて確かめる。そういうことを繰り返しながら、考えること、新しい知識を得ること(発見すること)の楽しさや喜びを味わう体験を子どもにさせるのです。低学年までのお子さんなら、おかあさんの働きかけに対してちゃんと反応してくれると思います。考えたり調べたりする主人公はあくまで子どもですが、そうした行動を引き出すにはおかあさんの上手な働きかけが必要です。こうした経験を繰り返しすることで、子どもは次第に自発的な調べ学習をするようになります。それが徐々に学習の自発性へと発展していけば、勉強に対するよいイメージが形成されていくことでしょう。

 他にもいろいろよい方法があるかもしれません。たとえば、ときどきおとうさんが、「一緒に算数の勉強をしてみよう」などともちかけてみてはどうでしょう。教えるのではなく、一緒に勉強するというスタイルで算数の話題をやりとりしながら、玉井式のテキストの解きかたについて考えを述べ合うのです。おとうさんがまじめになって答えの導きかたを教えるのではなく、考えを交換し、肝心なところを子どもに気づかせるようにするのです。そういう時間を共に過ごすことで、お子さんが「算数っておもしろいな!」と感じるようになれば、勉強の取り組みが確実に変わってくることでしょう。

 学ぶことに積極的な子どもに育てるためには、
1.興味や関心をもたせる
2.様々に考えを巡らせることの楽しさを味わわせる
3.「あっ、そうか。わかった!」という、発見の喜びを体験させる
4.親が1~3のプロセスを見守り、プラスのフィードバックを与える
 このプロセスを繰り返すことが大切です。これによって、子どもは自信を深め、さらには自らのもつ好奇心や探求心をより一層大きなものにしていきます。

 親は、テストの得点や他者との比較でわが子を評価すべきではありません(無論、よければ大いにほめてやりたいですが、親がそればかり気にしていると思わせるのはよくありません)。それよりも、子どもが何かに興味をもち、自分で詳しく知ろうと行動すること、自分で疑問を解決しようと考えることを、親が何よりも喜び応援しているのだということを、言葉や態度で伝えることが重要です。中学受験が近づくほどにめきめきと頭角を現すのは、早くからテスト対策に追われた子どもではなく、自分でこつこつ調べて疑問を解決する姿勢を携えた子どもです。何しろ、そういう子どものほうが「知りたい」という欲求をはるかに強くもっているのですから、当然のことだと思います。

 勉強の真の目的は、勉強への取り組みのなかにあると言われます。つまり知ろうという探求心を発揮すること自体が勉強の目的なんですね。知りたいと思い、目の前の解決すべき対象について一心不乱に調べたり考えたりする。だからこそ、わかったときの喜びは何にも代えがたいものになるのです。

 お子さんが低学年のうちは、そういう勉強を通じて勉強のもつよさを味わわせてあげてください。そうすれば、やがて学年が上がって難しい勉強に取り組むようになってからも、決して勉強を投げ出すようにはなりません。それどころか、お子さんは高度な内容の勉強を自らに課し、常に向上をめざして熱心に学ぶ姿勢を失わない人間に成長していくことでしょう。

H.S