子のイラストバックナンバー

2019.1.11

学力は才能で決まる?
それとも努力しだい?


 表題の問いかけを、もしもみなさんがされたとしたらどちらを選択されますか? 今回は、「才能か、努力か」を話題に取り上げてみました。そして、日本人のメンタリティのもつ長所を再確認してみようと思います。

 心理学の研究に「原因帰属」というのがあります。簡単に言うと、あることの原因を何に求めるか、その傾向を多くの人間を対象として調べることで、よい結果をもたらしたり悪い結果をもたらしたりするメカニズムを調べる研究のことを言います。

 たとえば、一定の能力を有する(学業成績でほぼ均等の)子どもを集め、「努力すれば報われる」と考える子どものグループと、「努力よりも才能で決まる」と考える子どものグループに分けます。このような考えを強化する働きかけを一定期間したのち、全員に解決困難な難しい学習課題に取り組ませます。そして、どれだけ多くの問題に取り組もうとしたか、どれぐらい粘り強く課題に取り組もうとしたかを調べます。そして、その結果を分析します。

 この調査をしたアメリカの心理学者によると、努力の価値を信じるグループの子どものほうが、できない問題が続いてもあきらめずに様々な工夫を凝らし、克服しようとする傾向が強かったといいます。いっぽう、「何事も能力次第だ」と考える子どもは、学力的には同じようなレベルでも、「自分には無理だ」と早めにあきらめるという違いが明らかになりました。

 「努力すれば報われる」という信念をもっていると、人間は簡単にはあきらめません。たとえ失敗を続けても「ほかの方法はないかな」「まだ頑張りが足りないんだ」などと、自分の状況を振り返ったり自らを励ましたりしながら粘り強く挑戦し続けます。しかし、原因を能力に帰属するタイプの子どもは、「自分には無理な課題だ」「問題が自分に向かない」などと、早々にネガティブな見極めをしてしまいがちです。こうした違いは、やがて1年2年後には、成績的にも、物事への取り組みにおいても、相当な違いをもたらすのは想像に難くありません。

 原因帰属の研究結果は、私たちの子育てにも大いに応用できるのではないでしょうか。努力を尊び、「努力すればやがて報われる」ということを子どもに教えるのです。ただし、ただ「努力しなさい」と頑張りを奨励するだけでは効果はあがりません。それなら、大概のご家庭でこれまで幾度となく試みておられると思います。重要なのは、「がんばったら報われた」という成功体験、それも大袈裟なものではなく、日常繰り返されている活動から得られる、ごく小さな成功体験をいかにして繰り返すかであろうと思います。つまり、勉強だけに限定せず、「何事も」という観点から子どもに浸透させるのです。

 毎日の家庭学習のなかから、ちょっとした行動のなかから、子どもに小さな成功体験の喜びや充足感を味わわせるよい材料を探してみましょう。勉強、スポーツ、趣味と、わが子にまつわる様々な活動をピックアップしてみましょう。

 ところで、お子さんは今何歳ですか? 私が勤務した学習塾で小学生の学習指導にあたった経験に基づくと、「何事も努力すれば報われる」ということを教えることの効果は、4年生の後半ごろから次第に薄れていくように思います。それは、子どもに自我が芽生え、自己の能力に対する評価が固着しはじめるからだと思われます。以前書いたことがあるかもしれませんが、この頃になると、テストでよい成績をあげた子どもに「やったじゃないか。実力を発揮したね」とほめても、「今回はまぐれです。どうせ次は元の成績に戻ります」といったような冷めた反応が返ってくるようになります。

 もしも私の経験に基づく考えが当てはまるなら、子どもに努力の重要性を教えながら成功体験の喜びや充足感を味わわせ、「がんばれば報われるのだ」という考えを浸透させるのは、小学校2~3年生までが望ましいと言えるでしょう。この年齢期までにわが子にたくさんの成功体験をさせるとともに、子どもに自己卑下を強いるような叱りかたを極力しないことが、わが子が先々前向きな人生を歩む人間に成長していくうえで大切なことであろうと思います。無論、わが子がいけない行為に及んだなら叱ることは必要です。しかし、子どもの性格や能力を否定するような叱りかたは百害あって一利なしです。

 私は長年中学受験の専門塾で仕事をしてきました。その間、数多くの子どもたちに接してきましたが、トップランクの成績をあげている子どもは、いつもより悪い成績を取ったとき、例外なく「成績が悪かったのは、ちゃんと努力しなかったからだ」と受け止めていました。そして、どこがいけなかったのかを振り返り、次のテストでは必ずと言ってよいほど挽回していました。こういう姿勢は、保護者のすばらしい子育ての賜物と言ってよいでしょう。

 努力すれば報われる。努力をすれば、その分だけ偉くなれる。――この考えは、日本を含む東アジア圏の国の子育てに共通するものです。何事も才能が高く評価されるアメリカでは、逆に「才能で何事も決まるものだ」という考えが根強く残っていると言います。この考えかたに早くから染まってしまうと、努力を放棄する人間になってしまう危険性があります。努力を信じる日本人のメンタリティの優れた点は、ぜひ継承していきたいものですね。

 受験に関わる仕事をしていると、「努力はきみを裏切らない」という言葉をしばしば目にしたり耳にしたりします。受験生が、この言葉を自らに語りかけながら士気を鼓舞している様子も目にします。その結果、見事に志望校合格を得ているケースが多数あります。自分の可能性を信じ、その可能性を現実のものにするための努力をするのですから、よい結果を得るのは当然のことだと言えるでしょう。努力の積み重ね、努力の繰り返しは、自らの脳を鍛え、人間としての成長を引き出すための決定打なのです。




H.S